第16回環境教育講演会(シンポジウム) 未来をつくる環境&化学教育 ~実践的/探究的環境化学教育の推進に向けて~ で講演しました
日本化学会の環境・安全推進委員会主催の環境・化学教育に関するシンポジウムにて講演をしました。講演内容は,「日本環境化学会によるジュニアサイエンティスト育成の取り組み 高校環境化学賞について」の紹介でした.
高校環境化学賞は,高校生のクラブ活動などによる環境問題をテーマとした調査、研究活動を対象として、応募された調査報告の中から優秀な作品を表彰するという取り組みを2001年から継続しきました.実施形態が度々更新され,現在では右図のように,論文審査と学会でのポスター発表を経て受賞者を決定するようになっています.
高校環境化学賞への論文投稿は過去10年間(2013〜2023)で216報でした.左図はその論文タイトルのテキストマイニングをした結果です.高校生の関心が,(1) 身近な環境問題に着目し,(2) SDGsの視点から,(3) 科学で問題の解決・改善に向いていることが読み取れます.この取り組みを通じて,一人でも多くの若者がサイエンスへの興味を持ち,社会を支えるサイエンスの推進者へと育ってくれることが期待されます.
- 第16回環境教育講演会(シンポジウム)について(日本化学会 環境・安全推進委員会のページ)
- 高校環境化学賞について(日本環境化学会のページ)
北極圏土壌の分析を通して、気候変動のメカニズムに迫る
温暖化の進行により、陸域面積の 1/4 を占める永久凍土の融解が進むと大量の温室効果ガスが放出され、温暖化を加速化することが危惧されています。このような、全球気候を激変させる恐れのある永久凍土融解の発生リスクを正確に予測するため、ツンドラ火災による凍土撹乱を含めた気候モデルの高精度化が重要だと考えられています。現在のモデルによる温暖化フィードバック予測に大きな誤差をもたらす要因として火災頻度推定の不確かさがあります。この不確かさの一部は、衛星観測以前の記録が皆無で検証データが欠如していることによるものです。
生命分析化学研究室の熊田グループでは、国立環境研究所との共同研究で、ブラックカーボン(BC)、燃焼生成有機分子(PAHs、Retene)等の燃焼生成マーカー物質を用いて過去の火災イベントを復元するための手法(=燃焼記録プロキシー)の開発に取り組んでいます。開発した手法をアラスカツンドラ域の環境試料に適用し、過去 0.5〜1 万年の火災履歴の復元することで機構モデルの精度向上に貢献することが期待できます。
バイオマス燃焼由来物質の分類:燃焼生成物質は構造や物理・化学的特徴が連続的に異なる炭素系物質の集合体(Hedges et al., 2000)で、生成温度によって反応性(保存性)や輸送範囲(古環境トレーサーとしての有効範囲)が異なる
燃焼記録プロキシーの概念図;様々な燃焼起源からは存在形態や 14C 年代が異なる炭素系物質が放出される。それらの堆積履歴を形態別分析と極微量スケール AMS–自然レベル 14C 測定を利用して、個別に復元する
「河原の実験教室 ~小学生といっしょに体験しよう!~」
日本は水の豊富な国だと言われています。雨がよく降り、たくさんの川が流れ、周囲を海に囲まれています。通勤通学の途上で川を目にする人も多いでしょう。
かつて日本の都市河川は、流域人口の急増に下水道の整備が伴わず、生活排水に由来する洗剤成分で川が泡立つほど汚染されていました。それが徐々に改善され,いまではちょっと見ただけでは汚染されているかどうか分からないまでの水質に回復してきています。しかし環境ホルモンのように、僅かな量で生物の機能に影響を及ぼす人為起源化学物質による汚染問題は未だ解決の途上にあります。かつては水辺に立てば汚染を実感できましたが、現在の環境汚染は目に見えない問題に変わってきています。大気へ目を転じると、温暖化のような地球規模の異変が環境問題として取り上げられています。主要な温室効果気体である二酸化炭素は無味無臭、大気中の濃度は僅か0.03%です。その濃度が半世紀で0.007%増え、地球の平均気温が0.5℃上昇したということで問題にされています。もはや私たちには、変化があるかどうかすら知覚できないようなレベルの話です。
かくもわかり難い環境問題を、いま、多くの人たちが脅威であると感じています。それは私たちが、現在までのさまざまな知見に基づいて自然界の事象を捉えることができているからです。汚染された川にいる奇形の魚、崩れゆく氷河など、ショッキングな映像を流すメディアの力も私たちの環境問題観に大きく影響しています。
しかし環境の問題は実際には私たちの暮らしの問題です。メディアが取り上げるショッキングな現象の起きているところで解決をはかるのではなく,私たちの暮らし方を、私たちをとりまく環境との関わり方をどう変えるかという話です。そのために、私たちの身近な環境を知る、それもメディアを通じで間接的に,ではなく,自分の目で見て肌で感じるというリアルな体験を通して、直接的に知ることが重要です。
地域交流プロジェクトでは、小学校の環境学習授業に出張して河原で実験教室を行っています。この実験教室では、大学生が先生役をして小学生が川の水を汲んで水質検査をしたり、顕微鏡でミジンコを観察したりします。川の水に触れるとき、ミジンコを観察するときの小学生(と教える側の大学生)は皆とても楽しそうです。そして実験に取り組む眼差しは真剣そのものです。
河原に立ち、街を見る。川の空気を感じる。化学反応を、ミジンコの心拍を見る。そういう体験をしてみて掴めること、小学生とともに実験をしてみて感じ取れること、誰かに実際に教えてみて理解できること。地域交流プロジェクトは、そんなリアルな体験の機会を提供することを目指しています。小学校への出張授業を是非体験してみて下さい。(学生支援GP委員コラムの記事より)
東京薬科大学がかつて「学生支援GP」という文科省プログラムに参画していました。そのとき、地域交流プロジェクトの実行委員として執筆したコラム記事です。
EDTA (エチレンジアミン四酢酸)
Fe3+、Cu2+、Ni2+、Co2+、Ag+、Ca2+、Zr4+ など1価、2価、3価、4価の金属イオンと下図のような構造のキレート錯体を形成する。その金属封鎖能から、洗剤や酸化防止剤として広く利用される。EDTAの他にも-N(COOH)2を複数持ち金属イオンとキレート錯体を形成する化合物が数種類存在し,それらを総称してアミノポリカルボン酸系キレート剤(Aminopolycarboxylic acids; APCs)と呼ばれる。APCsは化学的に安定なため、下水処理過程で除去されず、水環境へ流入する。その安定な性質から、下水処理水の汚染範囲を判定する分子マーカーとしての利用可能性が注目、検討されている。
微生物による分解を受けにくいため、水処理としてはやや難易度の高い処理が必要である。一般に次亜塩素酸ナトリウム添加による酸化分解法が採られるが、重金属等の共存下では事前実験が必要である。ヨーロッパでは使用が規制されている。また、世界保健機関では、飲料水水質ガイドラインとして、0.6 (mg/L)と定めている。これは、EDTAが亜鉛をキレートして、飲料水から亜鉛が摂取できなくなり、亜鉛欠乏に陥ることもあることを懸念しての策である。
https://ja.wikipedia.org/wiki/エチレンジアミン四酢酸
生命、環境、生態系を解き明かす分析化学
地球上に生命が誕生してから、生命とそれを取り巻く物質世界の相互作用の歴史によって現在の地球環境が作られました。産業革命以来の人間活動は、かつてない速度と規模をもってその相互作用の仕組みを変え、地球環境をも変化させています。そのような環境影響や環境変動を早期に検出し、定量的に評価することは、 人類の営みを持続可能なものとするうえで重要な課題です。我々の研究グループでは、環境中の化学物質をプローブとして利用した環境評価手法の開発や、それを利用した環境評価のための研究を行っています。また、環境問題の本質は人々の日常生活に根ざしているので、多くの人が環境に目を向け、環境の質を評価することが重要です。そのために、簡易環境モニタリング手法、簡易分析法を開発し、人々の化学環境の理解を助けるための取り組みも行っています。
雑誌 someone (リバネス)のインタビュー記事
主要な大気汚染物質のひとつ多環芳香族炭化水素(PAHs)の分子レベル放射性炭素計測による汚染源解析を,肺胞まで到達する超微細エアロゾル粒子(PM1.1)に適用した研究が雑誌someoneに取り上げられました.
記事タイトル:環境汚染の起源を明かせ|熊田 英峰