ホーム » 2022 » 10月

月別アーカイブ: 10月 2022

北極圏土壌の分析を通して、気候変動のメカニズムに迫る

温暖化の進行により、陸域面積の 1/4 を占める永久凍土の融解が進むと大量の温室効果ガスが放出され、温暖化を加速化することが危惧されています。このような、全球気候を激変させる恐れのある永久凍土融解の発生リスクを正確に予測するため、ツンドラ火災による凍土撹乱を含めた気候モデルの高精度化が重要だと考えられています。現在のモデルによる温暖化フィードバック予測に大きな誤差をもたらす要因として火災頻度推定の不確かさがあります。この不確かさの一部は、衛星観測以前の記録が皆無で検証データが欠如していることによるものです。

生命分析化学研究室の熊田グループでは、国立環境研究所との共同研究で、ブラックカーボン(BC)、燃焼生成有機分子(PAHs、Retene)等の燃焼生成マーカー物質を用いて過去の火災イベントを復元するための手法(=燃焼記録プロキシー)の開発に取り組んでいます。開発した手法をアラスカツンドラ域の環境試料に適用し、過去 0.5〜1 万年の火災履歴の復元することで機構モデルの精度向上に貢献することが期待できます。

バイオマス燃焼由来物質の分類:燃焼生成物質は構造や物理・化学的特徴が連続的に異なる炭素系物質の集合体(Hedges et al., 2000)で、生成温度によって反応性(保存性)や輸送範囲(古環境トレーサーとしての有効範囲)が異なる

燃焼記録プロキシーの概念図;様々な燃焼起源からは存在形態や 14C 年代が異なる炭素系物質が放出される。それらの堆積履歴を形態別分析と極微量スケール AMS–自然レベル 14C 測定を利用して、個別に復元する

「河原の実験教室 ~小学生といっしょに体験しよう!~」

日本は水の豊富な国だと言われています。雨がよく降り、たくさんの川が流れ、周囲を海に囲まれています。通勤通学の途上で川を目にする人も多いでしょう。
 かつて日本の都市河川は、流域人口の急増に下水道の整備が伴わず、生活排水に由来する洗剤成分で川が泡立つほど汚染されていました。それが徐々に改善され,いまではちょっと見ただけでは汚染されているかどうか分からないまでの水質に回復してきています。しかし環境ホルモンのように、僅かな量で生物の機能に影響を及ぼす人為起源化学物質による汚染問題は未だ解決の途上にあります。かつては水辺に立てば汚染を実感できましたが、現在の環境汚染は目に見えない問題に変わってきています。大気へ目を転じると、温暖化のような地球規模の異変が環境問題として取り上げられています。主要な温室効果気体である二酸化炭素は無味無臭、大気中の濃度は僅か0.03%です。その濃度が半世紀で0.007%増え、地球の平均気温が0.5℃上昇したということで問題にされています。もはや私たちには、変化があるかどうかすら知覚できないようなレベルの話です。
 かくもわかり難い環境問題を、いま、多くの人たちが脅威であると感じています。それは私たちが、現在までのさまざまな知見に基づいて自然界の事象を捉えることができているからです。汚染された川にいる奇形の魚、崩れゆく氷河など、ショッキングな映像を流すメディアの力も私たちの環境問題観に大きく影響しています。
 しかし環境の問題は実際には私たちの暮らしの問題です。メディアが取り上げるショッキングな現象の起きているところで解決をはかるのではなく,私たちの暮らし方を、私たちをとりまく環境との関わり方をどう変えるかという話です。そのために、私たちの身近な環境を知る、それもメディアを通じで間接的に,ではなく,自分の目で見て肌で感じるというリアルな体験を通して、直接的に知ることが重要です。

地域交流プロジェクトでは、小学校の環境学習授業に出張して河原で実験教室を行っています。この実験教室では、大学生が先生役をして小学生が川の水を汲んで水質検査をしたり、顕微鏡でミジンコを観察したりします。川の水に触れるとき、ミジンコを観察するときの小学生(と教える側の大学生)は皆とても楽しそうです。そして実験に取り組む眼差しは真剣そのものです。

河原に立ち、街を見る。川の空気を感じる。化学反応を、ミジンコの心拍を見る。そういう体験をしてみて掴めること、小学生とともに実験をしてみて感じ取れること、誰かに実際に教えてみて理解できること。地域交流プロジェクトは、そんなリアルな体験の機会を提供することを目指しています。小学校への出張授業を是非体験してみて下さい。(学生支援GP委員コラムの記事より)

東京薬科大学がかつて「学生支援GP」という文科省プログラムに参画していました。そのとき、地域交流プロジェクトの実行委員として執筆したコラム記事です。