心身ともに優しい健康診断デバイスの開発(指先から染み出す汗で健康状態を調べる)
我々の研究室では、「少しの体液から病気を早期に見つける技術」を開発しています。たとえば、血液や尿、涙などの体液に含まれる「マイクロRNA」という物質に注目しています。マイクロRNAは、細胞の働きをコントロールする重要な物質で、がんの初期段階でも体液に現れるため、がんの早期発見に役立つと考えられています。特に、尿中のマイクロRNAを利用して、採血なしでがんを発見できる技術の開発を進めています。
ただし、尿中のマイクロRNAは血液中よりも少ないため、それをうまく捉えて検出する技術が必要です。私たちの研究室では、この技術を改良し、より早く簡単に病気を見つけられるようにすることを目指しています。
さらに、血液や尿以外にも、毛髪や唾液、汗、涙、さらには呼吸からも健康状態を調べる可能性に挑戦しています。こうした新しい検査方法を使えば、簡単で負担の少ない方法で病気を早期に発見できるようになるため、多くの人が気軽に健康チェックを受けられる未来を作りたいと考えています。
病理組織を化学の眼で観るイメージング技術の開発(疾患関連物質の所在
を突き止める)
病気が進行すると、体の中では様々な物質が異常に増えたり減ったりします。例えば、がんやアルツハイマー病などでは、特定の物質が異常に集まる場所があり、その場所を正確に見つけることが、病気の早期発見や治療にとって非常に重要です。私たちは、化学の視点からこうした物質の分布を調べる技術を開発しています。
この研究では、分析化学のイメージング技術を使って、組織の中に含まれる微量な成分を視覚的に観察し、病気に関連する物質の「地図」を作り出します。これにより、病気の進行や治療の効果をより正確に理解することができるようになります。
この研究の面白さは、病気の原因や進行をより深く知るための新しいツールを作る点にあります。将来的には、医療の現場で使われる診断や治療法の精度が向上し、多くの人々の健康を守ることにつながる可能性があるのです。分析化学と医療の融合によって、私たちの生活をより安心で健康的なものにするための研究です。
培養ヒト皮膚組織でアンチエージング(ヒト真皮の生体外培養と化学分析)
皮膚の老化は、紫外線や酸化ストレスなど、さまざまな要因で進行します。老化が進むと、シワやたるみが現れ、肌の機能が低下してしまいます。このため、アンチエージングの研究は美容や健康の分野でとても重要です。
私たちは、実際に培養したヒトの皮膚組織を使って、どのような成分や物質が老化を防ぐのか、またそのメカニズムを科学的に解明しようとしています。特に、分析化学的アプローチを用いることで、皮膚に含まれる微量な成分や変化を詳細に調べ、どの物質が皮膚の若々しさを保つのに役立つかを突き止めようとしています。
このテーマの魅力は、日常生活にも深く関わる「若さ」と「健康」を支える科学的な知見を得られることです。将来的には、肌を守り、美しく保つための新しい技術や化粧品の開発につながるかもしれません。このように、私たちの研究は、身近な問題に対する解決策を見つけるための挑戦でもあります。
ナノ・マイクロバイオデバイスの創製と応用
ナノ・マイクロデバイスとは、1mmの1000万分の1から1万分の1スケールの構造体で、生体物質や化学物質の分離・検出デバイスの他、細胞培養足場として応用することが注目を集めています。マイクロデバイスでは、チップ上に加工されたマイクロ流路を利用して、混合・反応、抽出、分離などの化学反応を行うことが可能です。サイズを小さくできるので従来の方法と比べて必要とされる試薬や試料の量が微量で済むという利点があり、近年、これらは自動分析、そのための試料等の取扱いなどの分野で技術開発が進んでいます。
当研究室では、新規のナノ・マイクロ構造体構築し、これまで困難であった生体分子の高速一斉分析を目指しています。また、マイクロ流体デバイスを応用した単一細胞分析法の開発にも取り組んでおり、平均的な観測・計測手法では知ることができない、個々の細胞における生命活動の詳細を検討しています。