生物や環境が発するSOSのメッセージを聞き分ける
世の中のすべてのものは化学物質でできています。
私たち人間の身体も化学物質でできており、それらがうまく連携することで生命は営まれています。
化学物質の連携が妨げられた状態が病気です。
この連係プレーの滞りをいち早く察知することができれば、深刻なダメージを負う前に病気に対処できます。
そのために私たちの研究室が挑戦しているのは“オミックス(omics)”と呼ばれる、生体物質の全容を明らかにしようという研究です。
細胞の中身(分子やイオン)をすべて明らかにし、それらのつながり(関係性)を紐解くことができれば、病気の治療に関する情報を引き出すことができ、
さらには生命の本質にも迫ることもできると期待しているのです。
分析技術を磨き社会に貢献する(オミックス研究の活用)
私たちを取り巻く自然環境やあらゆる生命現象は化学反応の連鎖によって成り立っています。この化学反応の歯車が狂うことによって疾病等の問題が生じます。
したがって、この化学反応のネットワークを紐解くことができれば、生命の本質に迫ることができ、さらには治療や環境問題の解決にも繋がっていくと期待されます。
本研究室では、生体や生命環境を“化学の目で覗く新しい窓”となる分析技術の開発に取り組むとともに、
得られた実験データを統合的に解析することによって、生命現象を分子レベルのシステムとして理解することを目指します。
これらの研究を通して、生命の仕組みを理解し、創薬・ヘルスケアや環境問題の解決に貢献していきたいと考えています。
健康状態を反映する(病気の兆候を見つける)有用な生体試料の探索
〜心身ともに負担の少ない検査法の確立を目指して〜
わずか1滴の血液で様々ながんをごく初期の段階で見つけられる。
そんな検査が近い将来、低価格で受けられるようになるという報道をよく見かけるようになりました。
ちなみに、最近メディアで注目されているのはマイクロRNAと呼ばれる物質。メッセンジャーRNAとは違い、タンパク質には翻訳されないRNA。
かつてはその機能が分からず、ジャンク(がらくた)とみなされていましたが、今や遺伝子の発現を制御する物質として脚光を浴びています。
このマイクロRNAは、がん細胞が自分の仲間を増やすときにも利用しており、血中に放出されているのです。ですから、早期発見に適していると考えられているのです。
そして今や採血さえ不要な時代となりつつあります。上記のマイクロRNAは血液だけでなく、尿や涙など様々な体液にも含まれており、尿中のマイクロRNAでがんを発見することも可能なのです。
ただし、尿に含まれるマイクロRNAは血液中よりも少ないため、マイクロRNAを捉えて濃縮する、あるいは信号を増幅する工夫が必要。
そこが分析屋の腕の見せどころで、そうした技術開発に本研究室は取り組んでいます。
さらに、血液や尿の他にも、毛髪や唾液、汗、涙、呼気にも健康状態や病気の兆候を知らせる情報が含まれていると我々は考えています。
血液検査よりも負担が少なく、気軽に安全に検査を受けることができれば受診率の向上につながります。
そうした血液に代わる代替試料の探索や血液の分析では分からない新たな健康情報を提供する生体試料の探索にも挑戦しています。
ものづくりは科学技術の根本 〜分子や細胞サイズの空間を創出する〜
科学実験というと試験管やフラスコを思い浮かべる人が多いでしょう。しかし、分析したいサンプルが1滴にも満たないわずかな量だとしたら、試験管では大きすぎます。
サンプルの量に合わせた大きさの実験器具が必要になります。
同じく、細胞を分析したければ、細胞をハンドリングする実験器具、すなわち細胞を一つずつ並べたり、一つずつ育てたりできる器具が必要になります。
また、細胞サイズの注射針も必要になるでしょう。でも、そうした器具は市販されていません。売られていなければ自分で作るしかありません。
ですから本研究室では、素材の開発から部品の設計や試作も行っています。市販の装置や既存技術を使うだけでは改善はできても、革新的な研究の進展は望めません。
“ものづくり”は科学技術の根本であり、市場にないなら自分で作製するというのが研究室の信条です。
生命分析化学研究室は、市販の分析装置や分析試薬を購入して使うユーザーではありません。
新しい分析技術を創造して提案し、10年先、20年先のスタンダートとなる分析法の開発を夢見ているのです。