細胞制御医科学研究室
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研究内容
哺乳動物細胞における分裂期の制御機構の解明

人間はたった一つの受精卵が正常に分裂し増える事から始まり、次世代に生命をつなぐ際にもたった1個の細胞に戻らなければなりません。従って、1個の細胞で起きている事を理解する事は生命の根源を理解する事につながる、と考えられます。これは「多種多様な細胞が複雑に連携しあって個体を形成してはじめてヒトが生きている事」を軽視しているのではなく、1個の細胞の事がわかればその延長線上に個体の問題が理解でき、1個の細胞の事がわからない限り個体の問題を全て解きあかす事も不可能だということです。この考えのもと、細胞はどのようにして増えていくのか、すなわち細胞周期の進行の制御機構の解明を目指して研究を行っています。細胞周期制御の異常は直接癌化に結びつくことから、癌の予防や治療にもつながる研究です。

実際の主な研究課題は、細胞周期の中で最もダイナミックな時期、即ち染色体の凝縮・配列・分離が起こると同時に細胞内の多くの構造が崩壊し二分された後に再構築される「分裂期」がどのように制御されているかを明らかにしていく事です。癌細胞では染色体数の異常が認められ、癌化の一つのステップになっていると考えられており、増殖因子等からのシグナル伝達に関与する種々の癌遺伝子産物、癌抑制遺伝子産物pRBp53等の研究とはまた別の視点からの重要な研究課題です。

1) 分裂期における細胞骨格の制御機構の解明






















 分裂期には微小管の再構築による紡錘体の形成とそれによる染色体の整列、分離が行なわれます。またアクトミオシン系からなる収縮環の形成より細胞が二つに分割されます。これらの過程は低分子量Gタンパク質Rhoファミリーにより制御されていることが知られています。私たちはRhoファミリーの不活性化を行なうMgcRacGAPの活性が紡錘体タンパク質PRC1との結合により制御されていることを見いだしました(J.Biol.Chem. 279, 16394-16402, 2004)。現在この点について更なる解析をすすめるとともに、細胞骨格系に影響を与える他の因子の解析も目指しています。

 
2)ユビキチン系による分裂期進行の制御機構の解明

 分裂期に特異的に機能するタンパク質の多くはユビキチン/プロテアソーム系により分解されます。私たちは分裂期特異的に機能するユビキチン運搬酵素(E2)であるUbcH10と相互作用する新たな因子H10BHを見いだし、これがユビキチンリガーゼ(E3)である可能性を報告しました(J.Biocem. 137, 133-139, 2005)。現在、H10BHと相互作用する分子を同定し、その機能の解析を進めています。

 
 
3)オートファジーと細胞質分裂のクロストーク

 オートファジーは非選択的バルク分解を行なう細胞内タンパク質分解機構であり、栄養飢餓時の栄養源確保や異常タンパク質の蓄積を防ぐなどの働きをしています。オートファジーでは、細胞質において二層の脂質二重膜からなる隔離膜を伸長させ、細胞内タンパク質や細胞内小器官などを囲い込む形でオートファゴソームを形成し、その後、リソソームと融合することにより内部のタンパク質や細胞内小器官の分解を行ないます。このオートファゴソームの形成には新たな膜成分の供給が必要です。一方、細胞質分裂時における分裂溝の形成にも新たな膜成分の供給が必要です。さらに分裂期にはオートファジーが起きないことも知られており、両者が同じような分子を介して機能していることが考えられます。そこでオートファゴソームの形成に関与するMAP1A/B-LC3、ならびに低分子量Gタンパク質に着目して、オートファジーと細胞質分裂の関連性の解析を進めています。

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