植物は環境変化にどのように順化適応しているのかというテーマを柱に、緑藻、ハプト藻などの真核微細藻類(主に植物プランクトン)やシアノバクテリア(ラン藻)を用い、植物細胞におけるさまざまな生命現象の分子レベルでの解明をめざしています。現在、特に力を注いでいるテーマは以下の通りです。
1.微細藻類に及ぼす環境要因の影響: 培養中の二酸化炭素濃度や温度、光、乾燥さらにヒ素が微細藻類にどのような影響を及ぼすのかについて解析しています。
2.チラコイド膜酸性脂質の生理的機能: 光合成電子伝達の場となっているチラコイド膜には、スルフォキノボシルジアシルグリセロールとホスファチジルグリセロールの二つの酸性脂質が存在します。その酸性脂質が光化学系IIの機能に重要な働きがあることが最近明かになってきました。
3.軟体サンゴ共生藻の単離と培養: 本学部生物有機研究室(井口和男教授)のクラブロン研究に加わる形で、軟体サンゴ・クラブラリアの共生藻がクラブロンの合成に関与しているかどうか調べています。
4.ハプト藻の円石形成(石灰化)機構: ハプト藻の1種プレウロクリシスは単細胞の光合成生物ですが、細胞のまわりに炭酸カルシウムの殼を持っています。その殼の形成機構を明かにするために、さまざまな角度から解析しています。
5.微細藻類におけるデンプン合成機構: デンプンの性質とその合成関連遺伝子の解析を行っています。シアノバクテリアのデンプンはラン藻デンプンとよばれ、分子構造が動物のグリコーゲンと似ています。
6.シアノバクテリアSynechocystis sp. PCC6803におけるグルコース利用機構:PCC6803株はシアノバクテリアとしては珍しく、グルコースを利用して生育することが可能です。しかし、完全な暗条件ではしばらくして生育が停止します。わずかの光を時々当てると生育が維持されるのですが、そのメカニズムを調べています。
7. 微細藻類を用いた二酸化炭素固定技術の開発: 微細藻類には液体中でなくても生き続けられるものもあります。本研究室では、微細藻類やシアノバクテリアを布上において光合成を行わせています。この系を用いて、大気中の二酸化炭素固定化システムを作製しようと努力しているところです。