キーワード解説

光合成 (Photosynthesis)

 光合成とは、光のエネルギーを利用して無機炭素から有機化合物を合成する反応をさす。その過程で水が分解されて酸素が放出される。地球上では光合成は陸上植物藻類シアノバクテリアによって行われている。地球上のほとんどすべての酸素は光合成に由来し、地球上のほとんどすべての有機物もまた光合成に由来する。
 

【光合成初期反応過程】
 光合成は、光合成色素(クロロフィルなど)による光吸収によって開始する。吸収された光エネルギーは隣の光合成色素に次々と伝達され、やがて特別な色素(スペシャルペア、図のP680)にエネルギーがわたる。特別な色素は電子を放出して別の特別な色素(フェオフィチン)を通してキノン(QA、QB)へと電子を渡す。この様な光合成反応の最も重用な反応を行う部位は“反応中心”と呼ばれている。
 特別な色素(スペシャルペア)は電子を放出したあとで、水から電子を奪い取る反応を行う。水は電子を奪い取られると分解して酸素が発生する。このような反応を行う反応中心は光化学系IIの反応中心と呼ばれている。
 一方、キノン(QB)に渡った電子は、別のキノン(PQ)や電子の授受を行うタンパク質(チトクローム(Cyt)と呼ばれるタンパク質など)を順々に移動し、さらに別の光化学系(光化学系I)に電子が到達する。光化学系Iに渡った電子は、光化学系Iが吸収した光エネルギーを利用して鉄硫黄タンパク質に渡される。この電子はやがてNADPという有機分子に渡り、電子を受け取ったNADPは有機物合成反応に使われる。
 このように、光化学系IIと光化学系Iの間を電子が受け渡される過程は電子伝達とも呼ばれる。光化学系IIと光化学系Iの間で電子が受け渡される間に、電子伝達のエネルギーを利用して、水素イオン(H+)が光合成膜(チラコイド膜)の外側から内側に移動する。光合成膜内側へ蓄積した水素イオンのエネルギーで今度はATPが合成される。ATPは、生物細胞内でエネルギーの受け渡しに利用される分子である。ATPも電子を受け取ったNADP(NADPH)と共に有機物合成反応に使われる。

【炭酸固定反応】
 光化学系Iから電子を受け取った還元型NADP(NADPH)とATPを用いて二酸化炭素を固定し、有機物(糖)を合成する反応が進行する。この反応は炭酸固定反応とも呼ばれる。この反応の発見者の名前を取って、この反応回路はカルビン=ベンソン回路とも呼ばれる。炭酸固定反応は葉緑体の内腔(ストロマ)中で進行する。光合成の最終段階で作られる有機化合物は、多くの場合、デンプンである。デンプンのほかに、ショ糖や脂質、タンパク質なども作られる。デンプンは一旦、葉の葉緑体に貯められる。蓄積したデンプンは、夜間、転流により根や果実などの貯蔵器官に運ばれ、またデンプンなどの高分子有機化合物となる。

【光合成細菌】
 光合成を行う生物は、植物、藻類、シアノバクテリアだけではない。これらの生物は水を分解して酸素を発生するが、水を分解できず酸素も発生できない光合成生物がいる。それらは光合成細菌とよばれている。光合成細菌は大きく2つの型が存在する。緑色光合成細菌と紅色光合成細菌の二つである。前項で説明した酸素発生型光合成細菌が二つの光化学系(光化学系Iと光化学系II)を持っているのに対し、光合成細菌は一つの光化学系しかもたない。緑色光合成細菌の光化学系は光化学系Iに似ており、紅色光合成細菌の光化学系は光化学系IIに似ている。光合成細菌は何れのタイプも光化学系を一つしか持たないために光から十分なエネルギーを得ることができず、水を分解できない。水の代わりに硫化水素、水素分子、簡単な有機分子等を利用して電子を獲得している。

【光合成系の進化】
 光合成生物の進化過程で、緑色光合成細菌と紅色光合成細菌が融合して、シアノバクテリアになったのではないかと想像されている。シアノバクテリアはその過程で、光化学系Iと光化学系IIの二つの光化学系を持つことになった。その二つの光化学系が直列につながることにより、2つの反応中心と電子伝達系が作られ、水分解からNADPまで電子が受け渡されることとなった。これにより初めて、酸素発生が行われるようになった。
 シアノバクテリアは、原始的真核生物細胞に捕食されたが、ある時食べられた細胞内で消化されずに生き残ってしまうという現象(細胞内共生)が起きた。現在では食べた細胞(宿主)が細胞分裂をする時に、シアノバクテリアの分裂も同調するという状況に至っている。これが“葉緑体”である。
 その後、光吸収の主要色素が変化し様々な藻類(緑藻、紅藻)が誕生した。光合成真核生物は多細胞化した。緑藻の一種(シャジクモの仲間)が陸にあがり、現在の陸上植物(高等植物)が誕生した。
 単細胞性真核植物である紅藻や緑藻は、他の真核生物細胞に食べられ再度細胞内共生を起こすこともあった。細胞内共生した、これらの藻類は複雑な構造を持っている。この過程は、複数回生じ、珪藻やクリプト藻、ハプト藻(円石藻はこの仲間)、渦便毛藻などさまざまな藻類がこうして誕生した。これは最初の植物の誕生を一次共生としたとき、二番目三番目の共生過程なので、二次共生、三次共生と呼ばれている。
 光合成は、地球上の生命の歴史を理解する上でも重要である。シアノバクテリアが酸素発生したことで、地上の海や大気が嫌気状態から好気状態に変わり、オゾン層まで形成された。古い地層に見られる鉄鉱石は、シアノバクテリアの酸素発生が原因とされている。酸素の増加は真核生物や多細胞生物の誕生を可能にした。また、オゾン層の形成で有害な紫外線が地表に届かなくなり、生物の上陸が可能となった。