製薬関連企業に強い東薬生命科学部

生命科学部卒業生の就職先:CRO(開発業務受託機関)

 


 

 近年、生命科学部の卒業生や生命科学研究科修士課程修了生の多くはCROに入社しており、CROは最も人気のある業種の一つとなっています。CROはContract Research Organizationの略であり(日本語訳は「開発業務受託機関」)、製薬企業から委託された新薬の臨床開発(治験)を行っています。製造販売の承認がされた薬のパッケージには製品名とともに製造企業名が表記されますので、製薬企業の名前の多くは一般の人に知られていますが、製品を通じて治験に携わった企業であるCROの名前が公開されることはなく、一般の人にはなじみが薄い業種です。

 伝統ある薬学部と先端科学の生命科学部を有する東京薬科大学は、医薬品業界への就職に圧倒的な強みを発揮しています。学生の就職先として医療品業界の人気が高い理由の一つはその給与の高さです。「転職サービスDODA社」の調査によると、2015年度の業種別の平均年収ランキング(全67業種)においてCROは第7位に位置しています(https://doda.jp/guide/heikin/)。ちなみに、一般のバイオ関連企業は15位、化学メーカーは18位、食品/飲料/化粧品は29位であり、生涯賃金で比べると食品/飲料/化粧品とCROでは約3,500万円ものひらきがあります。

 受験生の皆さんに生命科学部卒業後の就職先についてもっと詳しく知っていただくために、生命医科学科の伊東史子准教授が世界最大のCROであるクインタイルズの日本法人、クインタイルズ・トランスナショナル・ジャパン株式会社(以下、クインタイルズ社)を訪問し、臨床開発事業本部長である品川丈太郎氏にインタビューを行ってきました。(聞き手、伊東史子)

 


 

クインタイルズ・トランスナショナル・ジャパン株式会社quintiles-logo-Footer.png

臨床開発事業本部長にインタビュー

 

CRO業界とその動向
求められる人材
入社後の教育と仕事について
CROの給与と昇進
今後のビジネス展開
学生へのメッセージ
インタビュー後記

 

卒業生からのメッセージ

 

吉川佑樹さん(2015年入社)
小竹莉愛さん(2014年入社)

 


CRO業界とその動向

品川丈太郎・臨床開発事業本部長

 

伊東:よろしくお願います。

 

品川:よろしくお願いします。

 

伊東:最初にCRO業界やその動向についてご紹介いただけますか。

 

品川:近年の製薬企業の成長率は年間3〜4%ですが、一方CROはその倍、7〜8%です。なぜ同じような業界でこのような差が出ているかというと、製薬企業が自社の臨床開発部門をどんどんスリム化してアウトソーシング(外部委託)するようになってきたからです。医薬品業界の成長に加えて、臨床試験の外部委託率が増えているのでCROは成長率が高いのです。今後も非常に有望な業界であると言えると思います。我が社の臨床開発部門は今年の4月に154名の新卒者を採用しましたが、その数はおそらく国内の製薬企業も含めてトップです。CRO業界成長率の倍で成長を続けている好調な事業を支える有望な人材を積極的に採用しています。

 

伊東:CROが急成長した理由ですが、1989年に当時の厚生省がGCP(Good Clinical Practice:医薬品臨床試験の実施基準)を施行したことがその理由なのでしょうか。臨床試験の実施基準が厳格化されたので製薬企業だけでは十分な対処ができなくなったからでしょうか。

 

品川:1980年代までの我が国の新薬の治験は「科学」としては十分ではありませんでした。以前、発売されていた多くの認知症の薬が、その効果が確認されずに撤収されました。これは治験のプロトコールが科学的な意味で十分でなかったためです。GCP施行以来、日本でも世界基準での科学的な臨床試験が行われるようになってきたのは事実ですが、CROの発展は治験プロトコールが科学的に厳格化されたためではありません。

 臨床試験で言われていることは「10年、1000億円かけて10%しか成功しない」ということです。例えば、ある製薬企業において臨床開発部門に100人の人が働いていたとしましょう。成功率が10%なので、毎年のようにプロジェクトが減っていき、単純計算では10年後に10人分の仕事しかないということになります。勿論、研究所から新薬の候補が提供されたり、他の企業から新薬の候補を買うなどすれば、臨床開発部門の人たちには仕事があるということにはなります。バブル期(1987年〜1991年)には、こうしたやり方で仕事もあったのですが、バブル崩壊でもうそういったやり方は成り立たなくなってしまったわけです。

 企業としては「90人の負のコスト」が生じるリスクをなんとかしなくてはいけないということになったのです。そのリスクを回避するためにアウトソーシングが始められ、それがCRO業界の成長を促しました。

 臨床開発部門をどのくらい残すかは企業戦略によります。外資系だと非常に少ないですが、日本国内の企業だとまだ半分以上は自社で臨床試験を行っています。国内での委託率は20〜25%であり、まだ完全に自社で臨床開発を行っている会社もあります。


求められる人材

 

伊東:御社ではどのような人材を求めているのでしょうか。

 

品川:採用するのはバイオサイエンスのバックグラウンドをもった学生です。採用される人の約半分は薬科系、残りは農学、獣医学、生命科学分野です。

 

伊東:学部卒と大学院修了者の入社比率はどれくらいですか?

 

品川:学部卒で採用されるのは全体の約2割程度です。残りは修士および薬学6年制修了者です。学部生の中には製薬企業や臨床開発職は「修士が応募するもの」と、ハードルの高さを感じている人もいるようですが、こちらとしては別にフィルターをかけているわけではなく、結果的にこういった比率となっているだけです。学部生の人にもっと応募して欲しいと思っています。

 

伊東:生命科学部には、分子生命科学科、応用生命科学科、生命医科学科がありますが、どの学科の学生が御社に適していると思われますか。

 

品川:どの分野が適しているということはありません。また薬科系がベストということでもありません。病気および薬剤に対する好奇心が人一倍高く、その他には英語などに前向きな姿勢を持っている人を求めています。つまり、好奇心があって勉強意欲が旺盛な人です。

 

伊東:モチベーションが高いことが大切ですか。

 

品川:そうです。勿論、薬科系の学生には最初アドバンテージがあります。しかしながら、好奇心とモチベーションでそのアドバンテージはあっという間に逆転します。薬に対する知識は入社後の学習であっという間にキャッチアップできます。

 英語ができればそれに越したことはないのですが、英語は実務で必要でないとなかなか身に付かないものです。我が社で担当する臨床試験は年間で150〜160はありますが、英語が必要なのはその約半分です。英語ができないから明日からの仕事ができなくて困るということではありません。

 

伊東:採用に際してはTOEICの点数の指定はありますか。

 

品川:ありません。

 

伊東:世界で活躍するために英語力以外に求められる能力は何でしょうか。

 

品川:自己アピール能力(発信力)ですね。英語は下手でもよいですので、一生懸命伝えようとすることが大事です。話せば上手だけど話さない人と、下手でも一生懸命伝えようとする人では、外国人からは後者の人が好感を持たれます。

 

伊東:新卒で御社に入れなかった場合、中途採用はありますか。

 

品川:他社で臨床試験を経験された人材を数多く採用しています。それ以外では薬剤師、看護士、CRC(Clinical Research Coordinator:治験コーディネ−ター)、MR(Medical Representative:医療情報提供者)などの経験を積んだ方を採用しています。

 


入社後の教育と仕事について

 

 

伊東:薬学部出身者と生命科学部出身者で、御社で就く仕事に違いはあるのでしょうか。また、東京薬科大学生命科学部のアドバンテージはどこにあると思われますか?

 

 

品川:両学部で就く職種に違いはありません。東京薬科大学の生命科学部のアドバンテージは学内に薬学部があるということだと思います。

 

伊東:入社してからはどのような教育が行われるのでしょうか。

 

品川:我が社ではCRA(Clinical Research Associate:臨床開発モニター)としての教育以外に、英語を学ぶ機会を提供しています。海外研修という制度も設けています。毎年10名程度、海外での仕事のやり方を先輩の指導の下で学ぶことができます。ただし、海外研修にはTOEICの基準を650点と設定してあります。

 英語ができれば多くの利点があります。例えば、結婚後にアメリカやシンガポールへと転居した場合、その国のクインタイルズで再度働く機会を得ることも可能です。実際そのような例もあります。

 

伊東:CRAとMR(医療情報提供者)の教育内容は違うのでしょうか?

 

品川:サイエンスの度合いという観点からは、その内容や深みに違いがあると思います。CRAの場合、領域が多岐にわたります。時には再生医療や医療機器の治験もありますので、幅広い知識が必要です。そのために様々なレベルのトレーニングが必要です。臨床試験はサイエンスであり、GCPという世界共通の統合されたルールの下で行わなくてはいけません。一方、MRについては製品に対する専門性が求められます。例えば、高血圧や糖尿病における自社製品のセールスポイントを十分理解して説明することなどが求められます。

 

伊東:学生の中には、親族ががんを煩った経験を持つ人もいて、そういう人の中にはがん治療薬の開発にこだわって仕事をしていきたいという学生もいます。そういった人は御社で活躍できますか。

 

品川:そういった人も歓迎します。ただし、がん治療薬に関しては、通常の薬の治験に携わる場合より高い能力が求められます。なぜなら抗がん剤は、高血圧や糖尿病などの薬と比べて多くの副作用が生じるからです。それら副作用についても十分な知識が必要です。例えば、薬を飲むことによって胸が痛くなったとしたら、肺炎の場合もありますし、心筋梗塞の場合もあります。そういった副作用に対しても十分対処できることが必要です。抗がん剤の試験は現場のドクターの声も重要なので、社内には私を含めて9名のドクターがいます。

 こういった点を除けば、我が社では本人が比較的自由にキャリアプランを設定することができます。我が社は日本で一番多くの臨床試験を手がけるCROですので、抗がん剤のみに携わりたい、薬全般に幅広く、抗がん剤以外の薬の臨床開発をやりたいといった人たちの要望をかなり満たせると思います。


CROの給与と昇進

 

伊東:給与面についてお聞きしたいのですが、医療品業界は給与が比較的高いと言われますが、それは生み出す利益率の高さからくるのでしょうか。

 

品川:ご指摘の点はそのとおりですが、さらに日本には国民皆保険の制度があり、それもあって製薬企業の給与は高く設定されてきました。CRO業界は製薬企業と人材採用において競合しますので、製薬企業に近い給与体系となっており、我が社も製薬企業と同等の給与を用意しているつもりです。

 

伊東:高齢者増に伴う医療費の増加が問題となってきているので、政府は医療費を抑制しようとしていますが、今後利益率が低下していくおそれはないでしょうか。

 

品川:薬という「物」に依存している製薬企業はそうだと思います。ですから製薬企業はどんどんアウトソーシングを行い、また企業の合併買収を繰返して利益率の低下を防いでいるのだと思います。ところが我々は「物」ではなく、「サービス」を提供しています。そして非常に数多くの企業からの委託を受けていますので、個々の企業の治験委託数が変動してもトータルとしての委託数は変わらず、安定した収入が得られています。顧客バランスもよく、我が社の顧客は国内外が半々です。

 

伊東:昇進の基準は何でしょうか。

 

品川:年功序列はありません。能力が評価されますので、できる人、志の高い人の昇任は早いです。私自身も40代半ばでこの職につきましたが、前任者は60代半ばでした。

 会社の規模が大きいのでそれに比例して管理職の数も多く、昇進の機会はたくさんあります。また女性の働く職場としても適しており、臨床開発部門の6割程度が女性で、女性管理職の割合もそれに近い数値です。

 我が社は外資と内資の良い面を両方取り入れていると思います。外資系のCROの年間離職率は15-30%であり、我が社の離職率は、現在は8%になっています。日本で20年以上事業を継続している企業として、よりよい就業環境を模索してきています。


今後のビジネス展開

 

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伊東:御社は今後どのようにビジネスを展開されるのでしょうか。

 

品川:世界最初であり、また世界最大のCROであるクインタイルズは、現在全世界で約36,000人以上の社員を雇用しており、またCROの中で最も多くのPh.D(博士号取得者)と MD(臨床医)を有しています。サイエンスを基盤にした高度な専門業務を行い、そして「患者さんのため」というプロフェッショナリティは変わらないと思います。

 製薬企業との繋がりについては、パートナー化を進めつつあります。その企業の臨床開発をクインタイルズに全面的に委託するということであれば、早い段階から新規開発薬の候補リストを共有できるので、それに対応するための我が社の人材の育成と雇用を確実に準備できます。つまり、「win-win関係」の構築ですね。また、本来は製薬企業内で行われていたデータマネージメントを我が社でお手伝いするということも行ってきています。

  海外ベンチャー企業の委託も増えています。法改正によって海外の企業が日本での臨床試験を直接日本のCROに委託することが可能となりました。これをICCC(In Country Clinical Care-taker:治験国内管理人)と言います.ただし、この委託を受けるためには、製薬企業と同等の能力、すなわち厚労省との交渉、安全性評価、治験薬の管理等が求められます。ICCCビジネスについては、我が社は業界トップクラスですし、かなり多くの経験を有しています。

 再生医療に関しては、神戸のクラスター推進センターにクインタイルズのオフィスを開設し、そこにコンサルタントを常駐させてさまざまな相談を受け付けています。また治験準備を進めているものもあります。再生医療の分野は従来の治験とは「数」においてまったく異なります。従来型の「化合物」の治験は3つの段階(フェーズ)で進められ、最初のフェーズIでは10人、IIでは100人、IIIでは500人といった数で治験が行われてきました。でも再生医療では、「500人に治験」などということはありえないわけです。そうなると開発の初期から厚労省との交渉が非常に大切になります。「薬」としての承認申請のためのプロセスを提案していく必要があります。我が社はICCCのマーケットリーダーでもありますので、厚労省と交渉する薬事部門には非常に経験豊富な人材が揃っています。


学生へのメッセージ

 

伊東:最後にCRO業界を目指す学生にメッセージがありましたらお願いします。

 

品川:CRO業界を目指す学生の人には、「病気」に興味を持っていただきたいと思います。我々の仕事は「病気を直す」、または「苦痛を和らげる」ということです。患者さんの苦しみ、家族のつらさを理解しようとするという気持ちは必須だと思います。

 またCROの仕事においては、チームワークが大切です。新卒の同期は重要な繋がりであり、大学の先輩・後輩も同じです。「繋がり」という点では、我々もアカデミアとの連携が重要と考え、現在10校くらいの大学で毎年1、2回の講義を行って臨床開発という仕事およびCROについて理解を深めてもらう努力しています。

 

伊東:そのような講義はぜひ生命科学部でも行っていただきたく思います。本日はどうもありがとうございました。

 


インタビュー後記:

 

 CRO業界に求められる人材として、品川氏は(1)好奇心の強さ、(2)モチベーションの高さ、(3)自己アピールを含めた発信力を挙げられていました。実はこれらの能力は生命科学の研究遂行にとっても極めて重要な能力です。最初の2つは、生命科学部に入学する学生は満たしている方が多いです。しかし、一般的に理系学生は文系学生と比べると引っ込み思案で、自己アピール力やプレゼンテーション能力が低いことがあります。こういった能力は、卒業研究や修士課程の研究を通じて教員とディスカッションを重ねることで養われ、また学会発表や研究発表において第三者に理解してもらえる「発信力」を習得することが可能です。クインタイルズ社の採用において、学部生よりも修士課程修了者が多く採用されるのは、修士課程の研究活動でそうした能力が伸びていることの証左のように思われます。

 生命科学部は、学生当たりの教員数の比率を他の私立大学と比べて高くしていますが、これは研究を通じて発信力やプレゼンテーション能力を学生に身につけさせるためです。自分にあまり自信が持てなかった学生の人が、研究成果を出すことによって自信が高まり、より積極的な姿勢へと変わっていくことを私たち教員は日々目にしています。また研究室においてチームとして研究を進めることによって学生の社会性やコミュニケーション能力も養われていきます。こういった学生の成長は私たち教員の喜びです。

 最後に、このインタビューに関してお世話になりましたクインタイルズ採用担当の皆さんに感謝いたします。(伊東史子)